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夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 / レビュー総評点:24
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ASIN:4152090391 / 売上順位:34791
早川書房(2009-06-10)翻訳:土屋政雄/カズオ・イシグロ ¥ 1,680(中古:¥ 779)
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レビュー総評点:
24
過去、文芸誌等にていくつかの短編(『夕餉』など)
は訳出されたことがあるものの、 「短編集」としてはイシグロ初の一冊。 通奏低音として流れるのは、引き続き 「個人にとっての大事な過去と、記憶の改ざん」 というテーマであり、夕暮れの時刻はまこと そのテーマに相応しい。 また元ミュージシャン志望だけあって音楽には詳しく 全編男女の悲哀に焦点が当てられ 一篇を除いて舞台を都市に設定するなど 長編にはない新鮮な趣がある。 どちらにせよ、一読して地味な作品群ではある。 しかし氏の敬愛するチェーホフと同じく、 表面的な静けさが必ずしも文学的な静けさでは無い、 ということが真に理解できる一冊である。 (アジアの息吹 / 2009-06-15)
長崎県生まれの英国人文学作家カズオ・イシグロが2005年のベストセラー大作「わたしを離さないで」以来4年振りに刊行した著者初の書き下ろし短編集です。著者は若い頃ミュージシャンを目指した時期もあったとの事で、本書に登場する音楽を愛する人々の姿から著者自身の若き日の音楽に対する熱い想いが伝わって来ます。本書収録の5編はどれもリラックスし肩の力を抜いて書いた小品の趣で、タイトルから連想される様な重々しい物でなく、むしろコミカルで人生どう転ぶか解らないという緩やかな可能性を秘め、読み手に自由に解釈を委ねる結末には微かにそこはかとない夢と希望が感じられます。
『老歌手』ベネチアのカフェで演奏していた流しのギタリストの私がアメリカの往年のベテラン大物シンガーと出会い、音楽人生への想いと長く愛し合って来た夫婦の行く末を教えられます。『降っても晴れても』大学時代の友人夫婦と久し振りに再会した僕に夫が夫婦の危機を打ち明ける。夫婦が不在で留守番中にひょんな事から犬の匂いをでっち上げるというとんでもない展開になる本書一番のユーモア編です。『モールバンヒルズ』ギター片手にシンガーソングライターを目指す学生の僕は都会暮らしに行き詰まり、ひと夏を田舎の姉夫婦のカフェで過ごす事にした。僕は店で働く内に出会った音楽家夫婦の険悪な仲を目撃する。若き日の著者を思わせる主人公の情熱と冷めた中年妻の諦念が対照的です。『夜想曲』テナー吹きの俺は他の男に惚れて別れようとしている女房の勧めで顔の整形手術に踏み切る。病院で「老歌手」のシンガーの元妻と出会った俺は、やがて二人共に包帯姿のままでちょっとヤバイ犯罪事件を起こしてしまう。『チェリスト』若いチェリストの青年が自称チェロ演奏の大家と名乗る旅のアメリカ人女性と出会い個人指導を受ける奇妙だが充実した日々を描きます。ますます円熟味を増す著者の好短編集をお楽しみください。 (夢追人009 / 2009-06-21)
音楽と男と女と黄昏の物語集。教訓めいたものは何もないし、プレーヤーは一流とは言い難い者が中心だ。成功の味もほろ苦く、黄昏時には哀愁を帯びる。だが、音楽は確かにそこに存在し、ささやかながら登場人物たちを祝福する。
音楽には人をいやす力がある。激しい主張や欲望を表現したものでさえ。短編は、物語世界の一部を窓に映すスクリーンだ。大部分が見えないことで、物語はかえって完全性を帯びる。「夜想曲」の、成功物語か落胆の物語かの前夜の静けさが、凍り付いた時間の中でなまめかしく息づいている。(ドクトルg / 2009-11-29)
最初、読み終えたときには「イシグロ氏にしては通俗的な作品集だなあ・・」と思いましたが、
やがて表面上の軽さとはうらはらに、なかなか内容の深い短編集だと気づきました。 登場人物は過去の成功を懐かしんだり、将来の栄光を夢見たり、 皆、いささか寂しく微妙な立場に立たされています。 音楽業界で成功するため整形手術を試みる、才能ある中年サックス奏者、 シンガー・ソングライターを夢見る若者と初老の音楽家夫婦、 ベネチアで不思議な年上の女性からチェロの手ほどき(?)を受ける青年など、 プロの音楽家として発展途上だったり、盛りを過ぎていたり、 俗世で成功していても空虚さを抱えていたり、と人生の縮図のような群像です。 イシグロの手にかかると、こういったはかなく、滑稽にも思える人びとの姿が 音楽の持つ魔法の力で、普遍性と一抹の哀愁を帯びて浮かび上がります。 そして音楽という天上の美に触れた彼らの人生が、 新たな意味とともに、夕暮れ時の光に優しく静かに照らし出されるのです。 どの短編にもそれぞれの味わいがありますが、個人的には二番目の『降っても晴れても』の 何とも絶妙なユーモア(ビリー・ワイルダーの映画みたい)に思わず声を出して笑いました。 こんなほろ苦いドタバタ喜劇も書ける人だったんですね。 (Nutrocker / 2009-10-13)
副題には、音楽と夕暮れをめぐる五つの物語とある。「音楽」は短編を連ねるための重要な要素で、かつては誰もが知っていた老歌手、バンドを転々とする共産圏出身のギタリストなどあじわい深い登場人物の姿形を浮かび上がらせる。ただ、主題は「夕暮れ」の方だろう。
誰しも訪れる下り坂にさしかかった人間たちの物語。27年間連れだった夫婦の離婚旅行を描いた「老歌手」が典型だが、どの作品もどこかもの悲しい。決して不幸とまでは言えないのだが、悲哀を感じさせる。才能ある若者が大家を自称する女性に演奏の手ほどきを受ける「チェリスト」もそうだ。その才能を大きく花開かせることなく人生の峠を越えてしまった。 大きな出来事が起こるわけではないが、ほのかなコーヒーの苦みが舌に残る、そんな余韻を感じさせる短編集。 (アジア旅人 / 2009-08-04)
描写が美しく、話の展開は意外な方向へ向き面白い。
背景になった都市と音楽の美しさもあいまって、そのまま映画にできそうな短編集。 著者の本は、「日の名残り」を読んだのみですが、この本でも、人生の夕暮れの美しくかつ残酷な断面を見事に描き切っています。 「日の名残り」よりは、登場人物が俗っぽく、等身大の人間たちで、より感情が移入できたような気がします。 20代半ばで、「日の名残り」を読んだ時の感想は、「自分の人生は、後悔するような終わり方をするはずがない。させてはならない。」というものでしたが、30代半ばになった今の感想は、「自分の人生が、少し後悔や落胆を含んで終わる可能性があるかも」という現実的なものに変わってきました。 これを、大人になったと捉えるべきか、単に老けたというべきか、考えさせられました。 静かな小説が好きな方には、大変お勧めです。(永遠の旅人 / 2009-07-25)
原題は「NOCTURNES」となっているのですが確かに良いタイトルで、この連作短編(いわゆる普通の連作短編ではないが、私には連作短編に感じました)の通しタイトルとしてベストだと思いました。
往年の大歌手でスターであり、ベネチアでギター奏者として生計をたてる主人公の母と東欧に暮らしていたときからのファンである老歌手との1夜のサプライズセッションの顛末を描いた「老歌手」 大学時代の親しかった友人夫婦の家に泊まりに行く1人やもめの47歳の英語教師として食いつないできた男。友人は仕事に成功しているが何故かいつもは仲の良い夫婦に訪れたささやかな危機的状況に陥った時期に来てしまったことから始まる変な時間の変なやりとりを描いた「降っても晴れても」 プロを目指すまだ若いギター奏者が姉の故郷の田舎のカフェを手伝うことで知り合ったミュージシャン夫婦との交友を描いた「モールバンヒルズ」 売れないジャズサックス奏者のとある入院に伴って生まれたセレブレティーとの不思議な展開を、不思議な場所で描いた「夜想曲」 若いチェリストと不思議な年上の魅力的アメリカ人女性との出会いで生まれた奇妙な師弟関係を語る「チェリスト」 もう少し詳しく書きたいのですが、どの作品もやはり素の状態で味わっていただくのが最も美味しいと考えさせられる作品、やはりイシグロさんは面白いです。 それでも、やはりどちらかというと私の好みは長編ですし、「日の名残り」、「私を離さないで」、「遠い山なみの光(昔のタイトルは「女たちの遠い夏」)」なんかを読んでしまっているので、その期待が大きくなりすぎた分、少しだけがっかりもしてしまいました。ただ、もちろん素晴らしい作品です。 イシグロカズオ作品の静かなトーンが好きな方にオススメ致します(cobo / 2009-10-28)
カズオ イシグロの初の短編集。
内容は他の人たちが、必要十分に説明しているので、、。 要約すると、 新しい人生のスタートをするために、 持ち物を取り替える人たちの話。 顔だったり、妻だったり、謙虚さだったり、。 どの作品もこっていて、 くすっと笑いつつ、 すこし苦い後味だった。 正に、登場人物達が、 夜に回想する話なのだろう、、。(ys1001 / 2009-11-21)
カズオ・イシグロの作品は初めて読みました。
静かな小説で、ストーリーもドラマチックな抑揚はありません(「夜想曲」という作品はちょっとあり)。それでいて退屈しないのは、しっかり心をつかまれていたからなのでしょう。作品の登場人物は、円熟期を過ぎ、落ちていく自分に葛藤を感じ、なかば諦めをもっています。人生を一日にたとえるなら、夕日が落ち、夜が始まる時間帯です。「夜想曲集」というタイトルは素敵な表現です。傍からみると、落ちぶれる人々ですが、悲壮感を感じさせません。私たちが、夜になったことからといって、悲しむことがないのと同じです。 あとがきを読むと「大きく影響を受けた作家の一人にチェーホフをあげている」というのがありました。「チェーホフ作品のように、ドラマ性や落ちがなく、人生の一瞬を切り取ってみせたような作品だ」と評されていました。この一文がこの本を表すのに一番ぴったりだと思います。 (hawaiijoho / 2009-09-26)
このところミステリ小説を多く読んでいたせいかもしれないが、最初の一編、二編は、オチのないラストにちょっと不満が残った。しかし、読み進めるうちに、短編間の繋がりに気づきはじめ、全体のテーマも見えてきて、それぞれの登場人物たちの他にどうしようもないとしか表現しようのないような心情も伝わってきて、深い感動へと繋がっていきました。
どの短編も設定が素晴らしいです。もう小説の設定なんて出尽くしたような現代で、よくまあ、こうも意外性のある設定ができるのかと思いました。翻訳文は土屋さんなので、安心して読めます。(すてふぁの / 2009-08-29) レビュー数 10 [amazonでレビューを書く] 平均点:4.5 |
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